これまでの推理をここで少しまとめてみよう。
■ 本能寺の変は事前に計画されたものではない。(定理1)
[論証]
1.信長のいた本能寺と嫡男信忠のいた妙覚寺を同時に攻めるのではなく
本能寺を攻めてから妙覚寺を攻撃している。
これでは妙覚寺にいた信忠に逃げられてしまう可能性が十分にあった。
1万3000名の兵があったのだから同時に攻めることはできたはず。
同時に攻めなかったということは
事前に計画が練られたものではないことを示している。
2.本能寺の変後の12日間の光秀の無秩序な行動が事前に
計画がなかったことを示している。
3.山崎の戦いにしても京をわざわざ出て行ったことや
天王山を取らないのは戦略的に考えられていない。
■ 光秀が謀反を思い立った時期は直前である。(定理2)
[論証]
1.5月28日の愛宕山で詠んだ光秀の歌は謀反の意図を表していないので
秀吉が後で謀反の気持ちがあるかのように改ざんした。
逆に言えばこの日には謀反の意図はなかったことになる。
2.5月29日に光秀は西国に向けて弾薬を送っている。
したがってこの日にもまだ謀反の意思はない。
3.光秀はいつも前もって先に使いの者を送って下調べする癖があるが
本能寺に使いの者を送ったのは6月1日。
つまりこの日になって初めて謀反の意図を表している。
■ 光秀が謀反に至った原因は領地召上げの命令である。(定理3)
[論証]
1.定理1より光秀が謀反を思い立ったのは6月1日である。
2.6月1日より2日の本能寺の変までに起こったことと言えば
6月1日に森蘭丸からの使いの者が来たことだけである。
光秀も部下に「6月1日に森蘭丸からの使いの飛脚が来て、
上様が装備の様子をご覧になりたい」とおっしゃって
おられると説明している。
3.この使者の話として残っているのが「領地召上げの命令」
だけであるのでこれが謀反の原因になったことは
間違いない。
4.歴史家は「領地召上げの命令があったとは思えない」とか
「仮にあったとしても領地替えはよくあること」のように
根拠を示さずに主観だけでしか話をしない。
「仮にあったとしても…」という表現は自分の論旨に根拠が
ないことを示している。
出張の直前に転勤を命令する社長はどこにもいない。
よくあることでは決してない。
■ 信長は領地召上げの命令は出していない(定理4)
[論証]
1.光秀にあえて追い込むようなプレッシャーを与える命令を出す必要は
なかったのは次の事で明らかである。
・勝敗はもはや信長陣営の勝ちである
・信長もその後出陣する予定であったので光秀に
ハッパをかける必要などなかった。
2.光秀が勝ち戦を決めたのでは自分の出番がなくなる。
・武田との戦では嫡男信忠に勝ちの栄誉を譲ったものの
光秀の出陣によって毛利が敗北したのなら
勝ち戦の名誉は光秀のものとなってしまう。
秀吉はほぼ勝ちを手中に収めているので
信長に勝ちの栄誉を譲るために援軍の要請を
したのであって信長もそれはよく承知しているはず。
光秀に勝たせたのでは信長の立場が全く意味のないことになってしまう。
3.信長が本能寺では「城の介が別心か?」とわが息子を真っ先に
疑っており光秀を追い込むような命令を出した覚えがないことを
信長自身が語っている。
まさしく信長は領地召上げのような非情な命令を出してはいないことを
物語っている。
4.秀吉が毛利陣営に出している「岡山5ケ国の割譲」と領地召上げの命令で
光秀に示した新しい領地は「出雲・石見の二カ国」であって一致していない。
秀吉が信長の意向なしで交渉することはありえないので
これは信長が出した命令ではない。
…さて上記の定理1から定理2が導き出され一方で定理3が成り立つ。
これらから導き出される次の定理とは何だろう?
■ 領地召上げの命令はニセモノである(定理5)
これまでの推理を進めていくとどうにもこの「領地召上げの命令」は
ニセモノではなかったかと類推されてしまう。
次のようにこの命令がニセの命令であれば論理的な説明がつく。
[論証]
1.(定理3)と(定理4)を同時に満足するのは信長以外の人間が信長の名前を
語って出した命令すなわちこの命令は偽であることである。
2.使いの者は前田利家の部下の青山興三と言われているが
前田利家は柴田勝家の部下でありこのときは北陸で上杉と戦っている最中なので
その部下だけが本能寺に残っていたのは非常に不自然である。
3.「出雲・石見の二カ国を与えるがその代わりに、丹波と近江の志賀郡を召上げる」
という命令そのものが文章的に不自然。この文章は領地没収だけを伝えている。
このような不自然な命令を出すことはしない。
4.秀吉が毛利に示した講和の条件は岡山5ケ国の割譲であるのに
使者が光秀に示したのは島根県の最奥であり到底一致していない。
信長が出した命令なら整合性があり一致しているはずである。
…見てきたように論理的に推察を進めて行くと、この「領地召上げの命令」が謀反の原因であると
わかってきたのに「領地召上げの命令」はニセモノということになってきた。
この命令は偽の命令であれば信長が光秀の謀反とは気付かなかったことや
一体誰がこのようなことを仕組んだのかフィクサーの正体まで次回は論理的に追いつめてみよう。