数学とは何か?

19. 1+1=2 の証明

YouTubeなどで突然「!+1=2」の証明という動画を見たことは
ないだろうか?
これは有名な「ペアノの公理」に基づく人気YouTuberたくみ氏の
番組である。
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ペアノの公理とは


集合 N と定数 0 と関数 Sと集合Eに関する次の公理をペアノの公理という。

0 ∈ N
任意の n ∈ N について S(n) ∈ N
任意の n ∈ N について S(n) ≠ 0
任意の n, m ∈ N について n ≠ m ならば S(n) ≠ S(m)
任意の E ⊆ N について 0 ∈ E かつ任意の n ∈ N について n ∈ E → S(n) ∈ E ならば E = N
このとき N の元を自然数といい、自然数 n に対して自然数 S(n) をその後者 (successor)という。


[解説]

公理とは定義に良く似ているが数学的な宣言であって証明する必要はない。
このペアノの公理の説明も少し良くないのは

定数 0 という表現を使っている点でありこの 0 というのは数の 0 を意味しているのではなく
数学的に言えば 0元である。
例として 0という表現を使ったのであって実際の数字の 0を意味しているわけではない。
別に 0の代わりに 1を使っても良いし 3を使っても良い。
とにかくそういう特殊な 0元という要素がこの自然数の集合に含まれるということを
定義したかっただけのことである。
数学の定義ではこのような定義はめずらしくはなく、よくあることなので
数学を専門としている人間であればこれはすぐにわかることであるが
たくみ氏はこれを実際の数の 0と誤解してしまったようである。
これはたくみ氏の誤解であって0元は0を意味しているわけではない。

参考までに自然数は + という演算の結果もまだ自然数の要素となるので
このような自然数の集合のことを演算 + で閉じていると数学では表現する。

しかしおそらくたくみ氏もこれを読んだせいか 数字も0も含めて

自然数とは 0,1,2, …. である

と宣言してしまっている。さらに言わなくても良いのに
自然数とは 0 と正の整数であると誤ったことをYouTubeで言ってしまっている。
たくみ氏は頭のよい人だと思っていたがこのような自然数の定義の基礎ができていないとは驚きであった。
またインターネットの公開記事でも 0も広義の意味で自然数に含める場合があるなどと
書いている記事もあったのだが数学は厳密な定義をベースに成り立っている学問であり
広義という定義は数学には含まれない。
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数学ではアテネやローマ、エジブト時代から自然数はあり後にインドで
0 という数字の概念が発見されて今でも世界数学者会議はインドで開催されている。

自然数の定義は中学生で 1,2, …と習っているはずであり、たくみ氏は
忘れていたのかも知れないがご本人は物理の専門のようだが
自然数の定義を誤ってYouTubeで発表するのはやはりマズい。
たくみ氏は自然数は 0および正の整数であると説明していたが
もとより自然数は0や整数の前に存在していたものであり
その説明では 0と整数ができてから自然数が定義されてことになる。
数学にも歴史は存在していて矛盾を起こす説明であり論理的ではない。
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実数そのものも実はこれという決定的な定義はなき4つの定義が数学界では
発表されていてどれを定義としても他の3つの定義を証明することができる。
大学の数学科ではこのように最初は実数の定義を教えるところから
始まる厳密な学問である。

読者もくれぐれも間違わないように

自然数とは 1, 2, … である。

( 0 は自然数に含まれない)